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ちょっと待った、その「産業競争力法案」

朝日新聞WEBRONZA 2013年11月13日

 11月6日(水)、衆議院第二議員会館地下1階の第8会議室にて、国会議員や経済産業省の役人たちを相手に、「日本型モノづくりの敗北」と題する講演を行った。私にとっては国会デビューの舞台となった。
 
 きっかけは、参議院の経済産業常任委員長を務める民主党の大久保勉議員が拙著『日本モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書) を読んだことにある。
 

 
 国会の上記委員会で「産業競争力強化法案」の審議が始まろうとしているときに、大久保委員長は、これまでの産業政策の延長上にある法案で、本当に日本の産業競争力が強化されるのかという問題意識を持っていた。
 
 私の本は、その問題意識の核心にズバリと切り込んでいた(らしい)。しかも、これまでの延長線上に未来はないことを明確に示していた。このことが、大久保委員長の琴線に触れたと思われる。
 
 最初は大久保委員長と1対1の情報交換会という話だったが、せっかくの機会だからということで、民主党主催の公式政策会議である「経済産業部門会議」に格上げされ、民主党国会対策副委員長の田嶋要衆議院議員が、関係する国会議員に招集をかけ冒頭の講演会が実現した。
 
 ここで一つ、注釈を述べると、私は民主党のために講演したわけではない。 国会で与野党集めて審議される「産業競争力法案」が、日本の産業界に追い風になるように貢献したいと思っている。だから、政党には関係ない。日本の産業競争力が強化されるのならば、党を超えてお役に立ちたい。これこそ、上記の本やWEBRONZAなどの記事で目指してきたことである。
 
 講演では最初に、「産業競争力が高いとはどういうことか」を示した。それは、「産業競争力」について、政治家、官僚、そして企業人がそれぞれ違うイメージを持っているかもしれないからだ。
 
 私は、産業競争力を測る指標を、1)世界市場での売上高(世界シェア)、2)利益および利益率、3)社員数、つまり雇用者数とした。そして、これら三つが高いほど、産業競争力が高いと定義した。
 
 では、技術力や技術は、産業競争力にどう関係するのか。技術力とはポテンシャル、すなわち能力のことである。この能力によって生み出されたものが技術である。技術は、1)~3)を増大させるための装置(仕組み)であると捉えることができる。
 
 またその技術を生かす装置(仕組み)には、世界にその市場を発見するマーケテイングがある。すなわち、マーケテイングという装置で得た知見を基に、技術という装置を生かすことができれば、産業競争力が向上するのである。
 
 次に日本半導体をはじめとするエレクトロニクス産業は病気であり、その容体はもはや重病であることを示した。例えば、日立、三菱、NECを統合したルネサスは危篤で、虫の息である。さらにエルピーダという死者もでている(図1)。
 

 
 半導体では、これまでに各社のトップ、産業界、経産省、政府などが、病気の診断を行い、それに基づいて処方箋を作成し、実際に処方した。ところがその処方箋(合弁、分社、国プロなど)は、ことごとく、外れた(図2)。
 

 
 その原因は、診断が間違っていたことにある。診断が間違っていたから、その処方箋も的を射ていなかった。その結果、病気はより悪化し、ルネサスは危篤に陥り、エルピーダなど死者も出たわけだ。
 
 私は、日立、エルピーダ、セリート(コンソーシアム)など業界内部にいた時からその病気を実感し、その病気に翻弄され、日立を退職することになった。さらに大学の研究者またはコンサルタントとして、業界外からもその病気を観察し続けてきた。講演では、私の体験談と研究結果を基に、その実態を赤裸々に、かつ明確に説明した。
 
 講演の結論は以下の通り。
 

      • 1)例えば半導体では、東芝のフラッシュメモリを除けば、重病の既存のメーカーが既存のビジネスで再生することはもはや無理である。
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      • 2)一つの最先端工場に5000億円もの設備投資が可能な半導体企業は、日本にはない(病気は治癒困難となった)。
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      • 3)処方箋作成には半導体を使う側、つまりシステム側の発想が必要である。
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      • 4)危篤のルネサスに公的資金を投入するのは間違っている。ルネサスの半導体(マイコン)が無くなると困るところ(トヨタとデンソー)が買収するべきである。
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      • 5)NEDOやJSTのベンチャー支援助成では、実績のないベンチャーはまるで採択されない(実績が無いからベンチャーなのに)。ベンチャーが育つ装置(仕組み)が、産業競争力法案には必要不可欠である。旧態依然としたルールは、全て一新するべきである。

 
 ここで、NEDOとは経産省のお膝元の「新エネルギー・産業技術総合開発機構」、JSTとは文部科学省のお膝元の「科学技術振興機構」で、ともに税金を財源とした研究助成を企業や大学などに行っている。
 
 講演の手応えは十二分、私の話は、国会議員や経産省役人に、ガツンと一発、ゲンコツを食らわせたような衝撃を与えた。そして、今までの延長線上にある(と思われる)「産業競争力法案」がまるで無力なことを思い知らせることができた。
 
 17:00の終了時刻となり、最後は大きな拍手で私の国会での初講演は終了した。参加した国会議員の方からは、いや実に良く分かった(お世辞だろうか)、もっとあなたの意見を聞きたいといわれた。大久保委員長からは、12月20日のホテルニューオータニのブレックファストミーテイングに招待されることになった(開始7:30、朝はやすぎ!)。国会で審議される「産業競争力法案」についても、有識者の参考人として、本当に招致されるかもしれない。まさに望むところである。