米国とドイツでSTAP細胞関連の論文発表
不都合な事実を無視するマスメディア
朝日新聞WEBRONZA 2016年7月13日
STAP細胞再び
「STAP細胞はES細胞が混入したものだった」「小保方氏はデータ改竄など不正を行っていた」
STAP細胞事件はこれで一件落着したはずだった。ところが、2015年末頃から、STAP細胞事件を再び蒸し返すような報道が目につき始めた。
まず、米テキサス医科大学のKinga Vojnits等が2015年11月27日、『ネイチャー』と同じ出版社が発行する『Scientific Reports』に、「Characterization of an Injury Induced Population of Muscle-Derived Stem Cell-Like Cells(損傷によって誘導された筋肉由来幹細胞様細胞群の特性評価)」(Scientific Reports 5, Article number: 17355 (2015))という論文を発表した。
また、ドイツのハイデルベルク大学のJee Young Kim等が2016年4月、『Biochemical and Biophysical Research Communications(BBRC)』に、「Modified STAP conditions facilitate bivalent fate decision between pluripotency and apoptosis in Jurkat T-lymphocytes」(BBRC, Volume 472, Issue 4, 15 April 2016, Pages 585–591)という論文を発表した。
さらに、米ハーバード大学附属ブリガムアンドウィメンズホスピタルが、STAP細胞の作成方法に関する特許を、日本、米国、EPO(欧州特許庁)、カナダ、オーストラリアなど世界各地で出願していることが報道された(日本では「特願2015-509109」)。これについて5月9日、弁理士でITコンサルタントの栗原潔氏は、同大学が日本国内でも特許出願し、4月22日に審査請求を行ったことを明らかにした(ビジネスジャーナル2016年5月21日)。
このような動きがあるにもかかわらず、マスメディアは無関心であり、世間の反応も冷ややかだ。2014~15年にかけてSTAP細胞関連記事が連日掲載され、狂騒状態を呈していたWEBRONZAにおいても、誰も上記の動きを取り上げようとしない。これは、極めて不自然なことではないか。
STAP関連記事を三つの時期に分類
ここで、WEBRONZAでは、STAP細胞関係の記事がどれだけ書かれていたかを調べてみた。WEBRONZAにおいて、「STAP」で検索すると117件の記事と14件のテーマが、「小保方」で検索すると92件の記事と12件のテーマがそれぞれ引っ掛かる。
これらの記事を斜め読みして、一言でも「STAP」または「小保方」という単語が使われている記事(以下、STAP記事)について一覧表を作ってみた。その際、STAP細胞問題を論じているかどうかは不問とした。トークイベントや座談会などは採録を数回に分けて記事化されており、それらは数本分の記事としてカウントした。
その結果、STAP記事の数は125件に上った。それを基に、2014~16年7月まで、月毎の記事数をグラフにしてみた(図1)。この図から、STAP関連記事は、狂騒、終焉、復活の三つの時期に分けられる。
狂騒:2014年1月~9月
小保方氏等がネイチャーに論文を発表し、そこにコピペやデータ改ざんの疑いがかけられ、「STAP細胞は本当にあるのか?」という議論が連日、メディアを賑わした。WEBRONZAでは、小保方氏が「STAP細胞はあります!」と発言した4月の記事が18件と最高件数を記録した。
その後ネイチャーによる小保方氏等の論文撤回があり、理研の発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井副センター長が自殺した8月には、STAP記事は12件となり第2のピークを記録した。
終焉:2014年10月~2015年10月
2014年11月、理研による検証実験でSTAP細胞は再現できず、理研はES細胞が今週したと結論し、小保方氏は12月に理研に辞表を提出した。
2015年1月、小保方氏がES細胞の窃盗容疑で刑事告発され、理研が小保方氏を「懲戒解雇相当」と発表し、毎日新聞の須田桃子氏が『捏造の科学者 STAP細胞事件』(文藝春秋)を出版すると、STAP記事は2月に12件のピークを記録した。
その後、STAP記事の数は、多少の乱高下はあるものの下火になっていった。「STAP細胞は無かった」「小保方氏が不正を行った」と決着がつき、小保方氏には研究者失格の烙印が押され、科学の世界からはじき出され、人格そのものが否定された。やがて人々の関心が薄れ、終焉を迎えた。
復活:2015年11月~現在
2016年1月に小保方氏が『あの日』(講談社)を出版すると、それが小さな話題となり、STAP記事が増加する傾向を見せたが、それも束の間で4月以降はほとんど関連記事が掲載されなくなった。
この間に、冒頭に記した米国およびドイツにおけるSTAP細胞の再発見(ただし、これらが本当にSTAP現象かどうかは異論があるらしい)、ハーバード大学の特許出願と審査請求などの新たな動きがあった。しかし、これらは今日までWEBRONZAで取り上げられることはなかった。
不都合な事実に正対すべき
もう一つ図を示そう。WEBRONZAで誰が何本STAP記事を書いているか、そのランキングを調べてみたものだ(図2)。ここで、例えば3人による対談は、3人それぞれに「1本」とカウントした。ただし、WEBRONZAのレギュラーライター以外は除外した。
トップは、杉浦由美子氏、高橋真理子氏、尾関章氏の16本だった。以下、佐藤匠徳氏12本、浅井文和氏11本、下條信輔氏8本、亀松太郎氏7本、武村政春氏と堀潤氏が6本、青木るえか氏が5本と続く。私(湯之上隆)も2本書いている。
ここでは、各氏の記事の内容は一切問わないが、STAP細胞や小保方氏に対して、集中的に記事を書き続けた人が、如何にたくさんいたかということが確認できる。
しかしこれらの論客が、米独のSTAP細胞関連論文や米国のSTAP細胞関連特許の動向について、何ら記事を書かないことに大きな違和感を覚える。
理由はいろいろ考えられる。「もうあの事件は終わったことだ」「一度決着したことを蒸し返したくない」「小保方バッシングを行ったのでバツが悪くてかけない」「STAP細胞はないと断言した。今さら出てきても困る」。
かくいう私も2本の記事の一つで、実験もしていないのにネイチャー論文に著者として名を連ねている笹井副センター長をギフトオーサーシップと糾弾した(2014年4月21日)。ところが、同年8月に笹井副センター長が自殺したため、後味が悪くなり、その後は関連記事が書けなくなった。
しかし、である。不都合な事実に目を背け、無視し、ダンマリを決め込むのはいかがなものか。
過去、朝日新聞は、従軍慰安婦問題や東電の吉田所長の報道など、誤報を放置する過ちを繰り返してきた。WEBRONZAとそのライターには、不都合な事実(真実とは限らない)に正対し、現在起きているSTAP細胞関連のできごとを取り上げ、分析し、考察して頂くことを希望する。