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朝日新聞、「海外STAP細胞論文発表」記事の掲載を一旦拒否…何度も執筆者に修正要求

Business Journal 「電機・半導体業界こぼれ話」2016年8月5日の記事を転載

2014年4月9日、会見を行う小保方晴子氏(撮影=吉田尚弘)

  
 最初に断っておくが、私は「反・小保方派」でもないし、「親・小保方派」でもない。また、専門は半導体をはじめとするエレクトロニクス関係であり、「STAP細胞」などの再生医学はまったくの素人である。
 
 そのような私が本稿で言いたいことは、「小保方氏について何かを述べる」ことでもなく、「2015年以降に発表された米独のSTAP関連論文の真偽や、米ハーバード大学のグループが出願したSTAP細胞関係の特許成立の可否を議論する」ことでもない。
 
 では、何を主張したいかというと、2014~15年にかけて狂騒状態というほどに騒ぎまくった朝日新聞をはじめとする大手マスコミが、その後この話題をほとんど取り上げないことは不自然ではないか、ということである。
 
 

「ビジネスジャーナル」だけがSTAP細胞を取り上げた

 
 14~15年に、「STAP細胞はあるのか否か」と日本中が大騒ぎした。その結果、「STAP細胞はES細胞が混入したものだった」「小保方氏はデータ偽装など不正を行った」と決着した。
 
 しかし、多くの日本人は、「小保方氏は不正をしたのかもしれないが、本当にSTAP細胞はなかったのだろうか?」と疑問を持っていると思う。私も、「本当のところはどうなのだろう?」と関心を持っていた。
 
 そのようなとき、「ビジネスジャーナル」では、米独でSTAP細胞の論文が発表されたこと、ハーバード大学のグループがSTAP細胞の作成方法に関する特許を世界各地で出願していることに関する記事が数回に分けて報じられた。これらの記事は多く人の耳目を集め、アクセスランキングのトップに並んだ。私も、興味を持って読んだ。やはり、「日本人はSTAP細胞があるのか否か」に依然大きな関心を持っていたのである。
 
 しかし、私をはじめとする多くの人々は、これらの発表が真のSTAP現象なのかどうかを判断するための専門知識を持ち合わせていない。したがって、かつて大騒ぎした大手マスコミは、これらを真正面から取り上げ、その真偽を専門家に分析させ考察させ、それらを報道することが責務であったはずだ。
 
 しかし、新聞やテレビなど大手マスコミがこれらを大きく取り上げることはなかった。また、インターネットの情報サイトでも、「ビジネスジャーナル」以外でこれほど話題になったサイトは私の知る限りなかったと思う。14~15年に大騒ぎしたことから考えると、大手マスコミや多くのネット情報サイトのSTAP細胞への無関心さは、極めて不自然であるし、メディアとしての使命を果たしていないと思った。
 
 

朝日新聞WEBRONZAへの寄稿

 
 私は、7つの媒体で記事を書いている。そのひとつに、朝日新聞の「WEBRONZA(以下、RONZA)」がある。RONZAもかつては大騒ぎしたが、その後はほとんどSTAP細胞を取り上げない「不自然な」サイトのひとつである。
 
 そこで私はひとつの決意のもと、「米国とドイツでSTAP細胞関連の論文発表 不都合な事実を無視するマスメディア」と題する記事を寄稿してみた。なお、本サイトは有料で、無料で読めるのは記事の3分の1程度である(無料の1/3部分だけを読んで、私を非難する輩が相次いだが、非難するなら最後まで読んでからにしろと言いたい)。
 
 記事では、まず「STAP」または「小保方」の言葉が使われている記事がRONZA全体で125件あることを調べ上げ、月毎の記事数をグラフ化した(図1)。この図から、STAP関連記事は、狂騒、終焉、復活の3つの時期に分けられるとした。
 

 
【2014年1~9月:「狂騒」期】
 
 まず小保方氏らが英科学誌「ネイチャー」に論文を発表し、そこにコピペやデータ改ざんの疑いがかけられ、「STAP細胞は本当にあるのか?」という議論が連日、メディアを賑わした。RONZAでは、小保方氏が「STAP細胞はあります!」と発言した4月の記事が18件と最高件数を記録した。
 
 その後、ネイチャーによる小保方氏らの論文撤回があり、理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB)の笹井副センター長が自殺した8月には、STAP記事は12件となり第2のピークを記録した。
 
【14年10月~15年10月:「終焉」期】
 
 14年11月、理研による検証実験でSTAP細胞は再現できず、理研はES細胞が混入したと結論付け、小保方氏は12月に理研に辞表を提出した。
 
 そして15年1月、小保方氏がES細胞の窃盗容疑で刑事告発され、翌月に理研が小保方氏を「懲戒解雇相当」と発表し、毎日新聞記者の須田桃子氏が『捏造の科学者 STAP細胞事件』(文藝春秋)を出版すると、STAP記事は2月に12件のピークを記録した。その後、STAP記事の数は、多少の乱高下はあるものの下火になっていった。
 
 こうして「STAP細胞はなかった」「小保方氏が不正を行った」と決着がつき、小保方氏には研究者失格の烙印が押され、科学の世界からはじき出され、人格そのものが否定された。やがて人々の関心が薄れ、終焉を迎えた。
 
【15年11月~現在:「復活」期】
 
 16年1月に小保方氏が『あの日』(講談社)を出版すると、それが小さな話題となり、STAP記事が増加する傾向を見せたが、それも束の間で4月以降はほとんど関連記事が掲載されなくなった。
 
 この間に、米国およびドイツにおけるSTAP細胞の論文発表、およびハーバード大学の特許出願と審査請求などの新たな動きがあった。しかし、これらが今日までRONZAで取り上げられることはなかった。
 
 以上を述べた上で、狂乱状態といえるほど記事を書き続けた多くのRONZAの論客たちが、米独のSTAP関連論文発表や特許出願の動きについて、何も言わないのは不自然であると論じた。また、その理由は、「もうあの事件は終わったことだ」「一度決着したことを蒸し返したくない」「小保方バッシングを行ったのでバツが悪くてかけない」「STAP細胞はないと断言した。今さら出てきても困る」というようなことではないかと推測した。
 
 

朝日新聞の対応

 
 私は、RONZA用の原稿を7月3日に朝日新聞の担当者に送った。しかし、このままでは公開できないと担当者からは拒絶された。数回のやり取りの後、私は担当者に「これ以上の修正を要求するなら、『RONZAでは投稿を拒否された』事実を含めて、どこか別の媒体に投稿する」と告げた。
 
 その結果、担当者から「編集会議で協議する」と連絡が来た。そして7月6日に「(編集会議では)さまざまなコメントが出たが、RONZAが指示する3点を修正すれば公開することにした」旨のメールが届いた。一晩考えた末、RONZAの要求する修正を行い、その原稿を7月10日に送った。RONZAのサイトには、7月13日にアップされた。私の記事は数日間、RONZAのなかでアクセスランキング2~4位辺りを占めていた。割と読まれたということであろう。どんな反応が出るかと思っていたら、次のようなことが起きた。
 
 7月19日に、私の担当者から「担当編集者を外されることになった」というメールが届いた。これが、今回の記事が影響した人事なのかどうかは、私にはわからない。
 
 次に同日、突然、粥川準二氏という人がRONZAのライターとして起用された。そして、翌20日、粥川氏による「米・独で発表された『STAP細胞』論文の真実 再現でも検証でもなかったことは日本のメディアで報じられている」という記事がRONZAに掲載された。
 
 この記事は、「7月13日付でWEBRONZAに掲載された『米国とドイツでSTAP細胞関連の論文発表』(著者は湯之上隆氏)という記事を読んで愕然とした。と同時に、ひどく失望した」という書き出しで始まり、私を名指しで批判した。また、米独の論文は「STAP細胞の再現されたことを意味せず」「特許は非最終拒絶という形式で却下された」と論じた。
 
 そして、次のように結論した。
 
 「湯之上氏は、WEBRONZAの書き手が『米独のSTAP細胞関連論文や米国のSTAP細胞関連特許の動向について、何ら記事を書かないことに大きな違和感を覚える』というが、編集部はこれらの件については他媒体に任せただけかもしれないし、ただの偶然かもしれない。また、『WEBRONZAとそのライターには、不都合な事実(真実とは限らない)に正対し、現在起きているSTAP細胞関連のできごとを取り上げ、分析し、考察して頂くことを希望する』とのこと。その希望は本稿が掲載されたことでかなえられたはずである。確認できた事実は『不都合』ではなかったが」
 
 

到底、私は納得できない

 
 朝日新聞の担当者は当初、私の原稿の公開を拒絶した。ところが、「他誌に寄稿する」と脅したら、編集会議に諮られ、一転して公開されることになった。ところがその後、粥川氏を突如ライターに起用し、湯之上批判の記事を掲載した。
 
 このようなタイミングで偶然、粥川氏がライターに登用され、偶然、湯之上批判の記事を書いたとは誰も思わないだろう。これは、はっきり言えば、朝日新聞の編集部が仕組んだシナリオであろう。大手新聞社がこんなことまでするのかと思うと、心底ウンザリする。
 
 また、粥川氏の記事にも納得できない。私を含めて世間の多くの人々は、STAP細胞の専門家ではない。しかし、その行方は気になっていた。なぜならあれだけマスコミが大騒ぎしたからだ。
 
 だから、米独から一見してSTAP細胞に関係ありそうな論文が発表されたときに(それがもしSTAP現象とは異なるというならば)、その道の専門家が、朝日新聞をはじめとする大手マスコミで、きちんと解説するべきなのだ。それが筋ではないか。
 
 それなのに、粥川氏は「『何ら記事を書かないことに大きな違和感を覚える』というが、編集部はこれらの件については他媒体に任せただけかもしれないし、ただの偶然かもしれない」などとお茶を濁している。
 
 その上、粥川氏自身も発表したのは、「筆者はヴォイニッツ論文を根拠とした『流言』については『Medエッジ』(2015年12月13日配信。廃刊したため筆者個人ブログに転載)と『SYNODOS』(2016年3月16日配信)で、キム論文を根拠とした『流言』については『AERA』2016年6月13日号(6月6日発売、6月8日に『dot.』に転載)で、検証したことがある」と言っているが、そんなマイナーな細かいものまで探して読めというのかと思うと、正直言って腹が立つ。
 
 結局、冒頭で記した「狂騒状態というほどに騒ぎまくった朝日新聞をはじめとする大手マスコミが、その後この話題をほとんど取り上げないことは不自然ではないか」という疑惑はまったく晴れない。それどころか、姑息な手段で火消しに走る朝日新聞には嫌悪感を覚える。
 
 過去、朝日新聞は従軍慰安婦問題や東京電力福島第一原子力発電所事故に関する報道など、誤報を放置する過ちを繰り返してきた。ちょっと論理は飛躍するかもしれないが、このような土壌が、上記の過ちにつながっていると思うのは私だけであろうか。
 
 
追記)本稿は、RONZAに寄稿しても拒絶される可能性が高いと考え、STAP細胞関連の記事が多数取り上げられている「ビジネスジャーナル」に、敢えて寄稿した。「大手マスコミの報道姿勢は不自然ではないか?」という私の主張の是非は、本サイトの読者の判断に委ねたい。