サイバー空間上で熱力学の第二法則は成り立つか?
朝日新聞WEBRONZA 2011年3月11日
熱力学の第二法則という物理法則がある。「エントロピー増大の法則」とも呼ばれている。この法則を、数式を使わずに表現すると、「秩序ある状態は無秩序な状態に向かう。その逆は起こらない」ということになる。
例えば、熱は高温の物体から低温の物体に移動する。その逆は起こらない。また、たばこの煙は部屋全体に拡散する。拡散した煙が再び一か所に集まることは起こらない。
例えば、熱は高温の物体から低温の物体に移動する。その逆は起こらない。また、たばこの煙は部屋全体に拡散する。拡散した煙が再び一か所に集まることは起こらない。
たばこの煙は部屋の中に拡散していく。煙が一カ所に集まるといった、映像フィルムを逆回ししたような現象が自然に起こることはない。
この法則によれば、世界の物理現象は常にエントロピー(無秩序性)が増大する方向に向かう。逆戻りすることはあり得ない。つまり、物理現象は時間的に非対称であり、不可逆である。そして、最終的に「平衡状態」に到達する。
この法則は、実は、未だ厳密に証明されているわけではない。しかし、これに反する物理現象も見つかっていない。筆者は、インターネットのサイバー空間上でも、「エントロピー増大の法則」が成り立つと思っていた。それを裏付けるような出来事が、昨年から今年にかけて頻発していたからだ。
例えば、2010年、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像が、インターネット動画サイト・YouTubeに流出し、瞬く間に世界中の人が見ることになった。
また、匿名により機密情報を公開するウェブサイト・ウィキリークス (WikiLeaks) が、アフガニスタン紛争に関するアメリカ軍などの機密資料約75,000点以上を公開し世界中を驚愕させた。
このように、一旦、インターネット上に流出した情報は、瞬時に世界を駆け巡る。組織の壁も、国境も無い。覆水盆に戻らず。機密情報という秩序は崩壊し、誰もが知る所となる(平衡状態に達する)。つまり、サイバー空間上でも「エントロピー増大の法則」が成立している(ように思える)。
ところが、チュニジアに端を発したジャスミン革命の推移を見ているうちに、だんだん自信がなくなってきた。それは何故かというと…。
この事件は、2010年12月、果物や野菜を街頭販売していた青年が、警察官の嫌がらせや暴行に抗議して焼身自殺を図ったことから始まった。彼の葬儀の行列を警察が阻止し、役所前で行われた抗議行動の映像がインターネットに投稿され、これがネットを通じて瞬く間に若者の間に拡散した。ここまでは、「エントロピー増大の法則」通りと言える。
ところが、その後、twitterやFacebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて多数の大規模なデモが起き、とうとう23年間続いた強権的なベンアリ政権が崩壊した。この過程では、一旦拡散した情報が、サイバー空間上で、打倒ベンアリ政権という強烈な「意志」に集束していく。つまり、拡散した情報が、一つの秩序を生み出している。これは、「エントロピー増大の法則」に反しているのではないか?
更に、チュニジアの革命は、エジプトや中東などへも拡大し、各国で長期独裁政権に対する国民の不満と結びつき、数々の政変や政治改革を引き起こしている。未だ沈静化する気配はない。中国や北朝鮮などにも飛び火する可能性も有り得る。
ここまで来ると、サイバー空間上に、一つの固い「意志」が構築されてしまったように思えてくる。それって、まるで、人間を敵とみなし人間に攻撃を仕掛けてくる、あのSF映画・ターミネーターに出てくる「スカイネット」みたいだ。
話がちょっと逸れてしまったが、脱線ついでにもう一つ。携帯電話とインターネットを使った京大入試のカンニング事件について。ブラインドタッチで携帯電話に文章を入力できるということに驚き、たかが(と言ったら叱られるかもしれないが)カンニングで逮捕されたということにも驚いた。
そもそも、社会に出れば、あらゆる手段を用いて結果を出さなくてはならない。キレイごとばかりでは済まないことが多い。少なくとも、携帯電話とインターネットを使わずに仕事をすることなどできはしない。それに、大学の中だって、権謀術策が渦巻いている。アイデア盗作、データ捏造、アカハラ&パワハラ(これは本筋と関係ないか)が跋扈しているじゃないか。いっその事、ケータイ、パソコン、なんでもアリの試験にしたらどうだろう。どうせ、入学して晴れて大学生になれば、レポートや論文作成に、これらのツールを駆使するわけだから、それらを使いこなす能力も込みで評価すれば? 公平・公正でないという意見もあろうが、世の中は、大体のことが不公平で不公正である。
しかし、このカンニング事件で一番驚いていることは、Yahoo!知恵袋に投稿した問題の答えが、試験時間中に直ちに返ってきているということだ。やはり、サイバー空間上には、何か「意志」があるのかもしれない。
この法則は、実は、未だ厳密に証明されているわけではない。しかし、これに反する物理現象も見つかっていない。筆者は、インターネットのサイバー空間上でも、「エントロピー増大の法則」が成り立つと思っていた。それを裏付けるような出来事が、昨年から今年にかけて頻発していたからだ。
例えば、2010年、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の映像が、インターネット動画サイト・YouTubeに流出し、瞬く間に世界中の人が見ることになった。
また、匿名により機密情報を公開するウェブサイト・ウィキリークス (WikiLeaks) が、アフガニスタン紛争に関するアメリカ軍などの機密資料約75,000点以上を公開し世界中を驚愕させた。
このように、一旦、インターネット上に流出した情報は、瞬時に世界を駆け巡る。組織の壁も、国境も無い。覆水盆に戻らず。機密情報という秩序は崩壊し、誰もが知る所となる(平衡状態に達する)。つまり、サイバー空間上でも「エントロピー増大の法則」が成立している(ように思える)。
ところが、チュニジアに端を発したジャスミン革命の推移を見ているうちに、だんだん自信がなくなってきた。それは何故かというと…。
この事件は、2010年12月、果物や野菜を街頭販売していた青年が、警察官の嫌がらせや暴行に抗議して焼身自殺を図ったことから始まった。彼の葬儀の行列を警察が阻止し、役所前で行われた抗議行動の映像がインターネットに投稿され、これがネットを通じて瞬く間に若者の間に拡散した。ここまでは、「エントロピー増大の法則」通りと言える。
ところが、その後、twitterやFacebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて多数の大規模なデモが起き、とうとう23年間続いた強権的なベンアリ政権が崩壊した。この過程では、一旦拡散した情報が、サイバー空間上で、打倒ベンアリ政権という強烈な「意志」に集束していく。つまり、拡散した情報が、一つの秩序を生み出している。これは、「エントロピー増大の法則」に反しているのではないか?
更に、チュニジアの革命は、エジプトや中東などへも拡大し、各国で長期独裁政権に対する国民の不満と結びつき、数々の政変や政治改革を引き起こしている。未だ沈静化する気配はない。中国や北朝鮮などにも飛び火する可能性も有り得る。
ここまで来ると、サイバー空間上に、一つの固い「意志」が構築されてしまったように思えてくる。それって、まるで、人間を敵とみなし人間に攻撃を仕掛けてくる、あのSF映画・ターミネーターに出てくる「スカイネット」みたいだ。
話がちょっと逸れてしまったが、脱線ついでにもう一つ。携帯電話とインターネットを使った京大入試のカンニング事件について。ブラインドタッチで携帯電話に文章を入力できるということに驚き、たかが(と言ったら叱られるかもしれないが)カンニングで逮捕されたということにも驚いた。
そもそも、社会に出れば、あらゆる手段を用いて結果を出さなくてはならない。キレイごとばかりでは済まないことが多い。少なくとも、携帯電話とインターネットを使わずに仕事をすることなどできはしない。それに、大学の中だって、権謀術策が渦巻いている。アイデア盗作、データ捏造、アカハラ&パワハラ(これは本筋と関係ないか)が跋扈しているじゃないか。いっその事、ケータイ、パソコン、なんでもアリの試験にしたらどうだろう。どうせ、入学して晴れて大学生になれば、レポートや論文作成に、これらのツールを駆使するわけだから、それらを使いこなす能力も込みで評価すれば? 公平・公正でないという意見もあろうが、世の中は、大体のことが不公平で不公正である。
しかし、このカンニング事件で一番驚いていることは、Yahoo!知恵袋に投稿した問題の答えが、試験時間中に直ちに返ってきているということだ。やはり、サイバー空間上には、何か「意志」があるのかもしれない。