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ピーターの法則は政治の世界でも成立する

朝日新聞WEBRONZA 2011年8月24日
「ピーターの法則」をご存じだろうか。1969年に、南カリフォルニア大学のローレンス・J・ピーターが発表した衝撃的かつ笑劇的な社会学の法則である。簡単に要約すると、以下のようになる。
 
      • 階層社会では、全ての人は(現在の地位において有能ならば)昇進する。
      • (いずれは)その人の「無能レベル」に到達する。
      • やがて、あらゆる地位は、職責を果たせない無能な人間で占められる。
 
 日立で半導体の技術者だった筆者がこの法則に気付いたのは、課長に昇進したときだった。図1を用いて説明しよう。
 

(図1)ピーターの法則・半導体編

 
 ご存知のように、半導体は、ムーアの法則に従って3年ごとに4倍の速度で集積度を増大させる。それとともに、3年ごとに70%微細化をし続けている。その結果、微細加工技術の難度は年々高くなる。

 ここで、1980年に微細加工グループに新人5人が配属されたとしよう。新人5人は、微細加工技術の開発をそれぞれ担当するとしよう。

 10年が経過し、90年になったとする。この10年間で微細化はより進展し、技術的難度が増大している。10年前新人だった5人には、職位に変化が生じている。技術で功績を挙げた者が、課長に昇進している。

 課長になると、技術から遠ざかる傾向がある(その方が「偉い」と思われている)。その結果、「無能化」する課長が出現する。なぜなら、技術が得意であり、技術で功績があったから課長になったのであり、マネジメント能力があったわけではないからである。

 さらに10年が経過し、2000年になったとする。微細化はさらに進展し、技術的難度はますます増大している。例の5人は、その後どうなったであろうか?

 10年前に課長だった者から部長が誕生している。部長になると、ますます技術から遠ざかる。その部長が技術に関わっていたのは、はるか彼方の十数年前であり、最先端の技術は全く分からなくなっている。その結果、完全に無能化し、ご隠居生活に入る。

 一方、20年経ってもいまだに課長に昇進せずに技術を開発している者もいる。つまり、技術開発があまり得意ではなく、さしたる功績も挙げられないものが、加速度的に難しさを増した技術開発を行わなければならないのである。

 つまり、技術が得意な者は、短期間で技術開発の功績を挙げ、そのご褒美で課長や部長に昇進し、技術には関わらなくなる。その半面、得意ではないマネジメントが仕事になる。そのため、多くの課長および部長が「無能化」する。その結果、最も技術的に能力の低い者が加速度的に難しさを増す技術開発を行わなければならないのである。

 嗚呼、なんというジレンマだろう。筆者は、半導体をはじめとする日本のエレクトロニクス産業が衰退したのは、このような「ピーターの法則」のせいではないかと思ったほどだ。

 筆者は、企業、学界、公官庁などの団体で、年に20回ほどの講演を行っているが、どこで「ピーターの法則」を話しても、「それはうちの会社(組織)のことだ」と絶大な支持を得てきた。つまり、「ピーターの法則」が成立しない組織は現在に至るまで見当たらなかった。

 そして、最近、「ピーターの法則」の成立範囲がさらに拡大された。そう、それは、政治の世界であり、政治家についてである。

 民主党は、野党としては、そこそこ機能したのかもしれない。しかし、与党になった途端にその馬脚を現した。これが本当に一つの党なのかと思うほど、まとまりがない無能な党になった。

 菅直人氏は、薬害エイズ問題に取り組んでいた厚生大臣辺りまでは有能だった。しかし、総理大臣に就任した後は、鳩山前総理から「ペテン師」呼ばわりされるほどの「無能レベル」に到達してしまった。

 現在、菅総理の後継を選ぶ民主党代表選が行われようとしている。筆者は、候補者各人をよく知っているわけではないが、素人目にも既に「無能レベル」に到達している議員が多いような気がしてならない。日本の将来が不安でならない。