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たまごっち型放射線検出器の新会社を設立した

朝日新聞WEBRONZA 2011年10月13日
 アクセサリーのように身に着けられて、安価で(目標5,000円)、子供にも分かりやすい(たまごっちのような)放射線検出器ができないかという記事を書いた(6月2日付けのWEBRONZA「あの緊急建言はどうなったのか?」)
 
 
 すると、是非その事業を一緒にやりたいという賛同者が現れた。また、放射線被ばくの健康問題に取り組んでいるNPO安全安心科学アカデミー理事長の辻本忠先生が、この検出器の開発に全面協力して下さることになった(辻本先生の勧めで放射線取扱主任者の資格も取った)。更に、この事業を支援したいというスポンサーが現れた。そして、放射線を検出する半導体センサーの開発と製造を引き受けてくれる精密機械メーカーも決まった。

 このようなことがとんとん拍子に進んで行き、とうとう10月5日に、放射線検出器の新会社、(株)エアージャッジを設立するに至った。筆者は技術担当の役員として、この会社に参加する。

 周りの友人の多くから励ましの声を頂いた。それと同時に、ここ数カ月、新たに放射線検出器を開発・販売するニュースが相次ぎ、「競争相手がたくさん出てきたけど、湯之上たちの会社は大丈夫なのか?」と多くの方が心配して下さった。

 例えば、「エステーが家庭用放射線検出器エアカウンター(15,750円)を10月20日に発売」、「docomoがスマートフォンで放射線が測定できる『着せ替えセンサージャケット』を発表」、「宇宙航空研究開発機構(JAXA)が放射線の強さを7段階で表示する家庭向けの簡易検出器を8月に発売(本当に発売されたのか?)」などが報道されている。

 これに対して、筆者は、全然心配していない。というより、むしろこのような競争を期待していた。というのは、今後、数十年に渡って、福島県民200万人だけでなく、首都圏3000万人も、放射線と付き合っていかなくてはならない。にもかかわらず、これまでの放射線検出器は低価格製品でも5〜10万円以上であり、高すぎるのである。また、通信販売で出回っている中国製品は、精度が悪く信頼がおけない。

 子供からお年寄りまで一人一台携帯できるような、安価で、信頼性が高く、使いやすい放射線検出器が提供されるためには、この市場に多くの企業が参入し、開発競争を行うことが必要だと思う。だから、多くの企業が参入してくる状況は、日本にとってはむしろ望ましいのである。筆者の会社・エアージャッジも、この競争環境の中で生き残れるように、安くて信頼できる放射線検出器を創り出したいと思っている。

 新会社を設立した2日後の10月7日、幕張メッセで開催中のIT・エレクトロニクスの展示会・CEATEC Japan 2011に出かけてみた。CEATECでは、docomoが「着せ替えセンサージャケット」を展示しているという報道があったからだ。

 docomoの「着せ替えセンサージャケット」とは、スマートフォンに、各種センサーが内蔵されているカバーを取り付け、その内蔵センサーが検出した値をスマートフォンの画面に表示する仕組みとなっている。着せ替えジャケットには、口臭/アルコール/紫外線を検出する女性用、呼気から体脂肪を計測する健康管理用、そして、放射線を検出する災害対策用の3種類が展示されていた。
 

 災害対策用の放射線センサーとしてはシリコン半導体を用いている。感度は0.01マイクロシーベルトとなかなか良い。また、測定したデータを地図情報に結び付けて表示できるアプリケーションがセットされている。

 しかし、ある1点の空間線量を測定するためには、その場所にスマートフォンを3分間固定する必要がある。これはちょっと長すぎる。また、センサーはボタン電池1個で動かすが、駆動時間は長くない。正確な駆動時間は分からないとのことであるが、連続使用すると数日しか(もしかしたら1日も)持たないのではないか? そのためか、積算の被ばく線量は測定できない。

 そして、最大の課題は価格だ。開発中であり価格は公表できないということだが、根掘り葉掘り聞いたところでは、センサー単価が最低3万円するとのことである。すると、どう考えてもジャケット価格は5万円以下にはなりそうもない。10万円近い価格になるのではないか。

 測定時間、駆動時間、価格など問題は多い。しかし、スマートフォンにジャケット方式で検出器を装着するアイデアは悪くない。筆者の会社でも、最初は単体のたまごっち型検出器をつくるが、いずれスマートフォンなど携帯電話に検出器を内蔵させたいと思っている。そして、一人一台、検出器付の携帯電話を持てるようにすることを目指している。

 開発競争は、始まったばかりだ。まずは、たまごっち型放射線検出器をいち早くつくり、福島の子供たちやお母さんに届けられるように、全力を尽くしたい。