少子高齢化が進む日本を先取りする電機産業
日本の少子高齢化に関する問題があちこちで議論されている。この問題は、凋落しつつある電機産業が抱えている課題と全く同じではないかと思い始めた。その理由を説明しよう。
有識者によれば、日本人口に占める生産年齢人口比の低下が問題であるという。戦後、平和を取り戻した日本では、ベビーブームが起き、栄養状態の改善や医療の発展に伴って平均寿命が伸び始める。その結果、生産人口比は増大し経済成長力が高まる。これを「人口学的贈り物(人口ボーナス)」と言うらしい。
その後、もっと寿命が延び同時に少子化が進むと、生産人口比が低下して経済成長力が停滞する。これを「人口学的重荷(人口オーナス)」と言うとのことである。
2010年時点で、日本の人口オーナスの度合いは、経済規模の大きな50か国中、7番目に高い。そして、2050年には、日本は世界一、人口オーナス度の高い国になると予測されている(国連『2010年版世界人口予測』)。
明治大学の加藤久和教授は、経済協力開発機構(OECD)20カ国の1985~2010年のデータを基に、一国の65歳以上人口比率と、その国の生産性(の進歩率)の間には、優位な負の相関があることを指摘している。つまり、高齢化が進めば生産性は低下するということだ(当然と言えば当然だが)。
2010年時点で、日本の65歳以上人比率は23%、世界で最も高い。この比率は今後もっと高くなる。上記の相関が正しければ(正しいと思うが)、日本の生産性はさらに下がることになる。これに対して、加藤教授は、海外から人材を招き入れるなどして、この人口動態の流れを食い止めねばならないと主張している。
さて、日本の電機産業である。1980~90年代に、日立製作所、東芝、NEC、富士通、三菱電機をビッグ5と呼んでいた。この5社が、世界半導体売上高トップ10の上位を独占したことから、このような呼び名が付いたのだ。
ところが、日米半導体摩擦が激化し、プラザ合意がなされ、バブルが崩壊した頃から、ビッグ5の業績は低下する。2001年のITバブル崩壊を機に、全てのメーカーがDRAMから撤退し、リストラ(と言う名の首切り)を加速した。現在も半導体を基幹事業に据えているのは、東芝のみである。
ビッグ5の社員数、平均年齢、そして、売上高は、どのように変化してきたのだろうか? 5社合計の社員数、平均年齢、売上高の推移をグラフに書いてみた(図1)。自分で書いたグラフを見て、(我ながら)驚いてしまった。
1993年に合計31万人いた社員は、その後10年で半分以下の15万人になってしまった。1970年に27歳だった平均年齢は、じりじり高くなり今や40歳を超え、さらに高齢化が進む気配である。リストラもしたが、恐らく新入社員の採用数も減らしてきたため、社員の高齢化に歯止めがかからないのだろう。そして、合計の売上高は、2000年の18兆円をピークに、減少の一途をたどり、2010年には2/3以下になってしまった。
結局、日本の少子高齢化と同じように、日本の電機産業においては、少「新入社員」高齢化が進み、生産的な社員比率が減少している。つまり、生産性に寄与しない高齢社員比率が増加し、人口オーナスの度合いが年々高くなっているのだろう。それが、売上高の顕著な減少に直結していると考えられる。今後日本が直面するであろう課題は、既に電機産業では現実的な問題になっている。
以前、このコラムで、高齢役員は60歳で速やかに引退し、フレッシュな後進に道を譲るべきだという内容の記事を書いた(「日本が変わるため、政治家も経営者も60歳で引退を」2011年11月23日)。問題は役員だけに限らない。生産性向上に貢献できない高給取りの一般高齢社員も、即刻辞めてもらいたい(今なら年金もちゃんと支給されるだろう)。その代わりに、新入社員の採用数を増やすべきである。