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エルピーダとルネサスの失敗を繰り返すな

朝日新聞WEBRONZA 2012年6月27日

 「エルピーダに続いてルネサスも倒産か?」と噂されていたが、大株主であるNEC、日立製作所、三菱電機と、三菱東京UFJ銀行など4行が1000億円の融資をすることが決まり、当面の経営破綻は避けられたようだ。

 しかし、これは単なる延命措置であって、ルネサスの危機は今後も続く。44000人もの巨大半導体メーカーが、何故このような事態に陥ってしまったのか? この原因を解明するには、エルピーダやルネサスが設立された2000年当時までさかのぼって分析する必要がある。

 2000年前後に日本半導体メーカーはDRAM(メモリーの一種)から撤退してSoC(System on Chip=一連の機能が入った集積回路)へ舵を切った。その際、NECと日立のDRAM部門を統合することにより、日本唯一のDRAMメーカー・エルピーダが設立された。後にエルピーダは三菱のDRAM部門も吸収した。

 2003年にNECは、SoC部門を分社化してNECエレクトロニクスを設立した。また、2004年に日立と三菱のSoC部門を統合することによりルネサス テクノロジを設立した(赤いロゴだったことから「赤いルネサス」と呼んだ)。2010年にはNECエレクトロニクスと赤いルネサスは統合されて、ルネサス エレクトロニクスとなった(青いロゴになったことから「青いルネサス」と呼んでいる)。

 結局、2000年以前の日立、NEC、三菱3社の半導体部門から、DRAMのエルピーダとSoCの青いルネサスができたわけだ。その過程で、半導体の売上高および営業利益率がどう推移したかを、図1および図2に示す。
 

 
 売上高においては、シリコンサイクルと呼ばれる好不況の波を差し引いても、2000年以降、ジリ貧になっていると言える。2012年3月期のエルピーダとルネサスの合計売上高は、2001年3月期の3社合計の半分以下になってしまった。
 

 
 営業利益率では、2000年以前は、日立、NEC、三菱ともほぼ同じ傾向を示している。2000年以降、エルピーダの営業利益率は、激しく乱高下するようになった。NECエレクトロニクスおよびルネサスは(赤だろうと青だろうと)、ほとんど利益を出せていない。

 結局、分社化や合弁を繰り返すことにより、売上高も営業利益率も一向に良くならないどころか、むしろ悪化している。

 そもそも、2000年前後の時点が最悪だったはずだ。シリコンサイクルによる好不況の変動がある限り、サイクルの底では赤字となる。ところがその赤字のときに次世代のために巨額の投資を行わなくてはならない。年々高騰するその投資額はもはや1社で賄うことは困難になってきていた。このような事情から1社単独で半導体事業を推進するのは困難と判断して、分社化や合弁によりエルピーダやルネサスをつくった。ところが、最悪だったはずの2000年前後から12年経って、もっと最悪(なんて言えばいいのか? 極悪か?)になってしまった。

 結局、分社化や合弁が失敗だった。それは次の比較からも明らかだ。図3に、(日立、NEC、三菱)3社連合、東芝、富士通の売上高を示す。
 

 
 前述したように、2000年以降、3社連合の半導体売上高は減少傾向にある。一方、分社化も合弁もしなかった東芝の半導体売上高は増大している。また、2000年以降、売上高が横ばいだった富士通は、分社してから微減傾向がうかがえる。

 なぜ分社化や合併が、うまくいかないのか? 

 分社化は、身軽になって迅速な経営判断を行うことを目指した。しかし、分社化した半導体メーカーには資金がなく、ほとんど親会社頼みであった。そのため、投資には親会社の許可を求める必要があり、迅速な経営判断などは絵に描いた餅だった。

 合弁は、2社または3社のシナジー効果を期待した。しかし、半導体の設計やプロセスには各社固有の文化があり、短期間での融合は困難だった。特に、500ステップを超える製造工程中、30%以上を占める洗浄技術については、各社各ラインごとに特注の洗浄液と装置を導入しており、互換性がなかった。このような物理的障害の他に、合弁した際には、膨大な社内の調整作業が必要となり、社員は疲弊し、技術開発は滞り、世の中から取り残されていった。

 では、ルネサスが生き延びる方法があるのだろうか? 巷(ちまた)では、同じく苦境に陥っているパナソニックセミコンダクターおよび富士通セミコンダクターと青いルネサスをくっつけて、設計専門会社(ファブレス)と製造専門会社(ファンドリー)に分割するというような報道がなされている。

 失敗は目に見えている。「再編が事態をより悪化させる」ということが過去10年の間に明確に示されたからだ。じゃあ、どうしたら良いのか? その案は次回にて。