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ルネサスを救済する唯一の方法

朝日新聞WEBRONZA 2012年7月12日

 合弁により設立したエルピーダは経営破綻し、ルネサスは1000憶円の融資を受けて辛うじて倒産を免れたものの危機は今後も続く。ルネサス救済策はあるのか?

 そもそもルネサスを救済する意味はあるか? 大企業が窮地に陥った時、「雇用を守らなくてはならない」ことが救済の理由に挙げられる。私は、これは間違っていると思う。

 本質的課題である「低収益率を解決すること」が救済の前提条件になっていなければ、1000億円だろうが、2000憶円だろうが、いくら融資しても意味は無い。底の抜けたバケツに水を注ぐようなもので、不況になればすぐに同じ危機に見舞われる。倒産したエルピーダがその典型的な代表例だ。

 では、日本最大の半導体企業ルネサスを救済する意味は無いのか?

 昨年の大震災でルネサス那珂工場が被災した結果、クルマメーカーが軒並み窮地に陥った。ルネサスから、車載用半導体(マイコン)が調達できなくなったからだ。車載用半導体の売上高でルネサスは世界一であり、その最大の拠点が那珂工場だったためだ(図1)。
 

 
 那珂工場の早期復旧のために、経済産業省、自動車工業会、およびトヨタなどのクルマメーカーがルネサスを支援した。また今回、NEC、日立製作所、三菱電機と、三菱東京UFJ銀行など4行が、ルネサスに1000憶円の融資することになったのも、クルマメーカーが「ルネサスを救済しろ」と経済産業省に働きかけたからだと聞いている。

 日本の半導体と電機産業が大崩壊してしまった現在、日本の製造業の拠り所はクルマ(と素材)しかない。何しろクルマメーカー連結売上高の総合計は日本のGDPの約10%を超える。この一点のみから、ルネサスを救済する意味は有ると言える。

 では、どうしたらルネサスを救済できるのか?

 短期間でV字回復した例としては、日産自動車と日本航空がある。いずれも、トップが交代している。また、デジタルカメラの出現により、米コダックが倒産したにも関わらず、富士フイルムは躍進した(図2)。
 

 
 フイルム需要は2000年にピークアウトするが、それを境にして、これほど売上高に差がつくとは驚きだ。これも、2000年に就任した古森社長の手腕によるところが大きい。

 トップが交代せずして、窮地に陥った企業がV字回復したり、飛躍的に成長した例を私は知らない。したがって、剛腕有能なトップを連れてきて交代させることが、最も手っ取り早い解決策だろう。しかし、剛腕有能な人材はなかなか居らず、成り手が無いのかも知れない(3社が合弁してグチャグチャの会社社長を引き受けたいと思う奇特な人はいないのだろう)。

 現在、私は、次のような案を考えている。

 ルネサスには、大別して次の三つの事業がある。車載半導体などのマイコン事業(37.7%)、アナログ&パワー半導体事業(31%)、およびSoC(System on Chip)事業(30.6%)である(カッコ内はルネサスの売上に対する比率)。マイコンは営業利益率10%程度あると言われている。アナログ&パワー半導体は赤字ではないが低収益率。そして、SoCが大赤字を垂れ流している。

 ルネサスの事業の中で、日本のクルマ産業に必要なのはマイコンだけだ。低収益のアナログ&パワー半導体も赤字のSoCも救済に値しない。またマイコン事業継続に必要な設計とプロセス技術者は1万人程度だろう。

 そこで、那珂工場と技術者1万人だけを救済対象とする。経営幹部は全員責任を取って辞めてもらう。そして、例えば、トヨタかデンソーから、経営陣を送り込む、または、那珂工場+技術者1万人をトヨタかデンソーが買収する、というのが私の案だ。

 いずれにしても、ルネサスの経営陣を一掃すること、および、ルネサスのマイコンが無くなったら最も困る所が何らかの形でルネサスの経営に関わること、これが唯一の現実解だと考える。