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中高年と女性のレジャーとなりつつあるダイビング

朝日新聞WEBRONZA 2014年6月27日
 6月の初旬に、ちょっと早い夏休みを取って、沖縄の慶良間諸島へダイビングに出かけた。そこで、
 
  • ダイバーが確実に高齢化していること
  • ダイバーの数はもちろんのこと、インストラクターやガイドにも女性の進出が著しいこと
 
  ……を実感した。どちらも定量的なデータはなく、多分に私の感覚的なものであるが、以下にその詳細を紹介しよう。
 

沖縄慶良間諸島のサンゴ(ダイブ・ゴビーズ提供)

 

ダイバーの高齢化

 
 私は、年齢から言えば、50代前半のれっきとしたシニアダイバーである。ところが、今回のダイビングでは、同じボートに乗り合わせたダイバーの中では、なんと最年少だった。そして明らかに私よりも年上と思われる女性ダイバーから、「若者」と呼ばれたのである。これには、ちょっとしたカルチャーショックを覚えた。

 少なくとも私が始めたころは、ダイビングは20代を中心とした若者のレジャーだった。それがいつの間にか、中高年のレジャーになっていたようだ。ダイビングショップのオーナーに聞いてみたが、やはり、中高年のお客さんが増えているとのことである。

 その理由を考えてみた。ダイビングはお金がかかるレジャーである。東京から沖縄の慶良間諸島に行く場合、往復の飛行機代、那覇からの船代、民宿の宿泊費、その上にダイビング費用がかかるため、4泊5日なら合計15万円程度は必要だ。ある程度経済的余裕がないとできない遊びなのだ。 

 したがって、非正規雇用が3割も占める20〜30歳代の(本当の)若者が、ダイビングを継続して楽しむのは、なかなか厳しいかもしれない。一方、順調に会社生活を送り、満額の退職金をもらって定年退職し、さらに年金も充実している世代ならば、時々、沖縄に潜りに行くことぐらい、余裕でできるだろう。こうしてダイバーの高齢化が進んでいったものと思われる。
 
 

女性の進出

 
 私がダイビングを始めたのは、日立に入社した翌年の1988年2月である。その当時は、ダイバーもインストラクターも男性が支配的だった。「ダイビング」というより、「潜水」と言った方がふさわしい殺風景な世界だったのである。

 ところが、1989年に原田知世主演の映画『彼女が水着に着替えたら』がヒットしたことを切っ掛けにして、女性ダイバーが急増し始めた。

 私は1990年秋にインストラクターとなり、その後10年近く、日立ダイビングクラブを運営した。その実績と感触から言えば、1990年代は、男:女の比率が2:1から1:1に近づいていった。そして2000年代には男女比が逆転し、女性ダイバーの方が多くなったのではないかと思う。

 なぜ、女性ダイバーの方が多くなったのか?

 ダイビングとは、人と競うものではなく、海という自然に身を委ね、視覚と触覚を楽しむ遊びである。男性より女性の方が楽しむことに長けているからではないか、と私は推察する。

 一方、インストラクターについては、次の通りである。インストラクターになるには、10日間程度の合宿形式のインストラクター・トレーニング・コース(通称ITC)を受けなければならない。私がITCを受けた1990年ごろは、毎日「しごき」に近いトレーニングが課せられ、古い体育会系の根性論が横行しており、試験の途中で脱落するものも少なからずいた。このような状態だったため、女性のインストラクターは珍しかった。

 しかし、ダイバー人口が増加し、インストラクターが足りなくなったため、1990年代中ごろにITCのやり方が見直されるようになった。その結果、女性のインストラクターも増え始めた。当初は「男性的な」女性インストラクターが多かったように思うが、次第に、女性ならではの繊細さで教え、ガイドをする女性インストラクターが出現してきた。そして現在は、男性より女性の方が、総じて指導やガイドの質が高いのではないかとすら感じる。

 以上、私の経験から、高齢化と女性の進出が進むダイビング業界について述べてみた。この傾向は、今後もしばらくは変わらないと思われる。

 一つ気になるのは、経済的な問題から、20〜30歳代の若者のダイビング離れが進んでいるかもしれないということである。元気な中高年が増えているかもしれないが、明日のダイビング業界を背負って立つ若者の減少は(それが事実なら)問題である。これについては、定量的なデータを見つけてから、改めて論じてみたい。