半数が転職検討 若者が会社を辞める本当の理由
朝日新聞WEBRONZA 2014年8月26日
日本経済新聞社とNTTコムリサーチがインターネットを使って共同で実施した転職意識調査によれば、男性も女性も20代は、約5割が転職を検討しているという(日経新聞2014年8月19日)。転職を希望する理由は、男女および年齢によって異なるが、20代男性では「給与水準」、20代女性では「職場の人間関係」をあげる人が最も多かった。
20代女性の「職場の人間関係」に悩んで転職を検討するのは理解できるが、20代男性は本当に「給与水準」が不満で転職するのか疑問である。なぜなら、実際に入社してみなければどんな人間関係が待っているかわからないのに対して、給与水準は入社前にある程度は調べることが可能だと思うからだ。
したがって、私は、20代男性の転職理由には、もっと別の本音があるのではないかと疑っている。本当は何か別の不満があるのだが、調査で転職する理由を聞かれて、手っ取り早く「給与水準」と答えたのではないだろうか。そのように推論(邪推か?)する理由を述べてみよう。
まず、入社して3年以内に離職する新卒者がどのくらいいるのかを厚生労働省の統計データで見てみよう(図2)。
したがって、私は、20代男性の転職理由には、もっと別の本音があるのではないかと疑っている。本当は何か別の不満があるのだが、調査で転職する理由を聞かれて、手っ取り早く「給与水準」と答えたのではないだろうか。そのように推論(邪推か?)する理由を述べてみよう。
まず、入社して3年以内に離職する新卒者がどのくらいいるのかを厚生労働省の統計データで見てみよう(図2)。
1996〜2010年までの中学卒、高校卒、短大卒、大学卒の3年以内に離職した新卒者は、それぞれ、70〜60%、50〜35%、40〜45%、35〜30%となっている。このように若干数値の変動があるものの、おおよそ中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が3年以内に離職することから、世間では「七五三現象」と呼ばれているらしい(知らなかった)。
さて次に、公益財団法人 日本生産性本部が行った「2013年度 新入社員 秋の意識調査」のデータを見てみよう。日本生産性本部は、1991年以降、毎年春と秋に、専門学校、短大、工業高専、高校、大学、大学院を卒業した新入社員を対象に、意識調査を行っている。その中で、私は次の三つの調査結果に注目した。
一つ目は、「一つの会社に最低勤めるべき期間は?」という質問に対して、「1年」「2〜3年」「4〜5年」「6年以上」「転職するそれなりの理由があれば期間は関係ない」「いずれでもない・わからない」の選択肢の中から「1年」「2〜3年」と回答した比率の年次推移である(図3)。
さて次に、公益財団法人 日本生産性本部が行った「2013年度 新入社員 秋の意識調査」のデータを見てみよう。日本生産性本部は、1991年以降、毎年春と秋に、専門学校、短大、工業高専、高校、大学、大学院を卒業した新入社員を対象に、意識調査を行っている。その中で、私は次の三つの調査結果に注目した。
一つ目は、「一つの会社に最低勤めるべき期間は?」という質問に対して、「1年」「2〜3年」「4〜5年」「6年以上」「転職するそれなりの理由があれば期間は関係ない」「いずれでもない・わからない」の選択肢の中から「1年」「2〜3年」と回答した比率の年次推移である(図3)。
日本生産性本部のプレスリリースでは、「1年」「2〜3年」の比率が2013年秋に44.5%と過去最高になったことを強調している。
しかし私は、そんなことよりも、どの年も、春より秋の方が、「1年」「2〜3年」の回答者比率が高いことに着目した。多少のアップダウンはあるが、春に「1年」「2〜3年」と回答する比率が低下傾向にあるのに、秋には大幅に比率が増大している。
二つ目は、「自分のキャリアプランに反する仕事をがまんして続けるのは無意味だ」という問いに対して、「そう思う」と回答した比率の年次推移である(図4)。
しかし私は、そんなことよりも、どの年も、春より秋の方が、「1年」「2〜3年」の回答者比率が高いことに着目した。多少のアップダウンはあるが、春に「1年」「2〜3年」と回答する比率が低下傾向にあるのに、秋には大幅に比率が増大している。
二つ目は、「自分のキャリアプランに反する仕事をがまんして続けるのは無意味だ」という問いに対して、「そう思う」と回答した比率の年次推移である(図4)。
日本生産性本部は、秋の回答結果だけをグラフ化し、2013年秋に42.4%と過去最高になったことを強調している。
しかしこの結果についても、「そう思う」と回答する比率は、秋より春の方がずっと低い。そして、春の「そう思う」の比率は、20%前後で比較的安定している。
三つ目は、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」という問いに対して、「そう思う」と回答した比率の年次推移である(図5)。
しかしこの結果についても、「そう思う」と回答する比率は、秋より春の方がずっと低い。そして、春の「そう思う」の比率は、20%前後で比較的安定している。
三つ目は、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」という問いに対して、「そう思う」と回答した比率の年次推移である(図5)。
日本生産性本部は(上記二つと同様に何かの一つ覚えの如く)、秋の回答結果だけをグラフ化し、2013年秋の結果が前年比5.2%増になったことを強調している。
しかしこれについても、春と秋の結果をグラフ化すれば、「そう思う」と回答する比率は、秋より春がずっと低いことが分かる。
以上の三つの調査結果から何が言えるのか? 新卒者が入社した直後は、「一つの会社に最低勤めるべき期間は1〜3年」、「自分のキャリアプランに反する仕事をがまんして続けるのは無意味だ」、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」と考えているものは、比較的少ない。問題は、その新卒者が半年経過して秋になると、上記の質問いずれに対しても「そう思う」と回答する比率が上昇することである。
恐らくは、希望に燃えて入社してきた新規学卒者が、半年間の会社生活で失望し、「辞めたい」と思うようになるのだろう。そして、そのようなことが七五三現象を生み出しているのではないか。
なぜ、そうなるのか?
実際に入社して、理想と現実のギャップを痛感する新卒者が多いのかもしれない。年長者の中には、我慢や辛抱が足りないという人がいるであろう(私も多少はそう思う)。しかし、会社の職場が、新卒者の若者の期待にまるで応えることができていない、という実態もあるのではないか?
このように考えているため、冒頭にあげた日経新聞などによる調査結果「20代男性の転職理由は給与水準」に違和感を持ったのである。
もし私の推論が正しいならば、会社は、せっかく採用した新卒者を戦力に育てるために、若者が何を考え、何をしたいと思っているか、もう少し丁寧に声を聴いて対応する必要がある。このままの状態を放置すれば、採用する会社にとっても、採用される新卒者にとっても、不幸なことである。
しかしこれについても、春と秋の結果をグラフ化すれば、「そう思う」と回答する比率は、秋より春がずっと低いことが分かる。
以上の三つの調査結果から何が言えるのか? 新卒者が入社した直後は、「一つの会社に最低勤めるべき期間は1〜3年」、「自分のキャリアプランに反する仕事をがまんして続けるのは無意味だ」、「条件の良い会社があれば、さっさと移る方が得だ」と考えているものは、比較的少ない。問題は、その新卒者が半年経過して秋になると、上記の質問いずれに対しても「そう思う」と回答する比率が上昇することである。
恐らくは、希望に燃えて入社してきた新規学卒者が、半年間の会社生活で失望し、「辞めたい」と思うようになるのだろう。そして、そのようなことが七五三現象を生み出しているのではないか。
なぜ、そうなるのか?
実際に入社して、理想と現実のギャップを痛感する新卒者が多いのかもしれない。年長者の中には、我慢や辛抱が足りないという人がいるであろう(私も多少はそう思う)。しかし、会社の職場が、新卒者の若者の期待にまるで応えることができていない、という実態もあるのではないか?
このように考えているため、冒頭にあげた日経新聞などによる調査結果「20代男性の転職理由は給与水準」に違和感を持ったのである。
もし私の推論が正しいならば、会社は、せっかく採用した新卒者を戦力に育てるために、若者が何を考え、何をしたいと思っているか、もう少し丁寧に声を聴いて対応する必要がある。このままの状態を放置すれば、採用する会社にとっても、採用される新卒者にとっても、不幸なことである。