「2013年以前もデング熱国内感染者はいた」と考えるこれだけの理由
69年ぶりにデング熱の国内感染が8月26日に確認された。それ以降、感染者は増加の一途をたどり、9月13日までに国内感染者は17都道府県で計116人となった(日経新聞9月14日)。
そのような中、9月10日にNHKのクローズアップ現代で放送された『デング熱 感染拡大を防げ』を視聴した。この番組から、デング熱に対して大きな疑問を持った。その疑問とは、「8月26日以前、例えば昨年以前に、本当にデング熱の国内感染者はいなかったのか?」というものである。疑問を持つに至った経緯は以下の通りである。
上記番組では、最初に感染が確認された埼玉県の10代の女性への取材が放送された。ダンスの練習で頻繁に代々木公園を訪れていたその女性に異変が起きたのは8月20日で、突然高熱が出て気を失い、救急車の中で気が付いた。「(熱は)40度だと思った。本当に外が暑くて熱中症だと思った」という。
その後入院して治療を受けたが40度の熱は一向に下がらず、医師も病名が分からなかったらしい。
そして入院から6日目、女性の母親は娘が足じゅう蚊に刺されていたことが気になり、インターネットで調べたところ、娘の症状と一致する病気を見つけ、「デング熱とかじゃないですよね?」と医師に伝えた。これがきっかけとなり、専門家が検査をして、ようやくデング熱であることが判明した。これがテレビや新聞で報道され、それ以降、続々と国内感染者が見つかっていったわけだ。
私はまず、次のような疑問を持った。
もし、この女性の母親が医師に「娘はデング熱ではないのか?」と進言しなかったら、この女性は単なる高熱患者として扱われたのではないか? さらに、この69年ぶりのデング熱国内感染者第1号が発表されなかったら、果たしてその後の100人を超える国内感染者が出ただろうか?
番組の中で、国立国際医療研究センターの忽那賢志医師も「デング熱の診断をしようと思っても、普通の病院だと検査できないところが多いので、どうしていいかわからない」とコメントしている。
東南アジアなどに渡航して帰国し当てから発熱した場合、「海外で何かに感染したのかもしれない」と本人も考えるし、診察する医師もその可能性を疑うだろう。しかし、今回のケースのように、渡航歴のない人に高熱が出た場合、デング熱を疑うということは、相当に難しいことなのではないか。
このように考えてくると、昨年以前にも、実は日本に国内感染者が出ていたのではないかという疑問が浮かぶ。
図1は、1999〜2014年までのデング熱報告患者数の推移を示したグラフである。今年、突然に100人を超える国内感染者が発生していることに異常さを感じる。むしろ、このグラフの背後には、報告されない国内感染者が多数、存在していたのではないかと考える方が自然だろう。
例えば、昨年2013年は、249の輸入症例(海外で蚊に刺されて感染し日本で発症した例)が報告されている。デング熱に感染した場合、発症するのは2割から5割だという。ということは、昨年は、498〜1245人の感染者が日本に存在していた可能性がある。
この感染者が帰国後、蚊に刺され、その蚊が別の人を刺して、国内感染者を出していた可能性は否定できないだろう。その国内感染者は発症しなかったのかもしれないし、発症したのにデング熱と診断されなかっただけかもしれない。
上記を裏付ける根拠が一つある。昨年、日本を周遊したドイツ人が帰国後に、発熱、皮疹等の症状を呈し、検査を実施したところデング熱に感染していたという報告が厚生労働省のHPに掲載されている(健感発0110第1号、平成26年1月10日)。
このドイツ人の事例からすれば、昨年以前に、日本に国内感染者がいなかったはずがない、と考えるべきだろう。
新聞やテレビなどでは、ウイルスを媒介する蚊が冬には死ぬので、デング熱が冬を超えて広がることはない、そのため、デング熱が日本に定着する可能性は低い、と報道している。
しかし、これについても疑問がある。都会には全館空調の効いた冬でも暖かいビルやマンションが多数ある。また、地下鉄や下水道管なども、あまり寒くない。したがって、越冬できる蚊がいても不思議ではない。
さらにここ数年は図1に示したように、平均して200を超える輸入症例が報告されている。これは来年以降も続くだろう。ということは今年と同じように、いつ国内感染者が出てもおかしくない。
「2014年は異常な年だった」のではなく、「日本はデング熱に感染する可能性のある国になった」と認識を改め、常に対策を怠らない努力をしていく必要があるだろう。