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ブームとなったIoTでどうやって稼ぐか
ゴールドラッシュの教訓をいかす者が勝者となる

朝日新聞WEBRONZA 2015年3月18日

 IoT(モノのインターネット)とそれに関連するウエアラブル端末が大ブームである(WEBRONZA 2015年1月20日)。しかし、ここは冷静になって「どうやって儲けるか」を考えた方が良い。その際、野口悠紀雄著『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』(新潮社)が参考になる。以下にまずその概略を示そう。
 

ウェアラブル端末として注目される「アップルウォッチ」のラインナップを紹介するティム・クックCEO=2015年3月10日、米サンフランシスコ、宮地ゆう撮影

 

1848年のゴールドラッシュ

 
 1848年1月、当時は荒野だったサンフランシスコの川に金が出た。見つけたのはドイツから移住して農場を築いたサッターである。サッターは箝口令を敷いたが、秘密は1週間で漏れ、使用人たちは仕事を放り出して金に群がった。
 
 やがて街から港から、そして翌1949年には全米中から、徒歩で馬車で船で、金を求めて人々がイナゴの大群のように殺到した。まさにゴールドラッシュが起きたのである。これらの人々は、「フォティーナイナーズ(49ers)」と呼ばれた。これが後に、アメリカンフットボールチームの名前となった。
 
 49ers の襲来により、1848年に1万4千人だったカリフォルニアの人口は、1849年末に 10万人、1852年に25万人にまで膨張した。サッターや49ersはどうなったか。
 
 

悲惨な金発見者と49ersの結末

 
 サッターの農園は49ersに踏みつぶされた。サッターは全財産を投じて、「サンフランシスコも金も私のもの」と言う訴訟を起こし、勝訴した。ところが、この判決に怒った49ersが暴動を起こし、サッターの息子たちを殺害した。サッターは、連邦議会へ権利の請願を行っている最中に、精神に異常をきたして死亡した。
 
 また49ersの多くは、食うや食わずの悲惨な状態に陥り、生活が破綻した。もともと1万4千人しか住んでない辺境のカリフォルニアへ、10万人もの49ersたちがやってきた。その結果、衣食住のすべてが不足し、生活必需品が暴騰したからである。
 
 結局、サッタ―も49ersも悲惨な結末を迎えたのである。
 
 

富豪になった者たちとは

 
 一方、ゴールドラッシュで成功した者たちもいる。まず、商人だったブラナンである。彼は、金を掘りに行かなかった。その代り、シャベル、金桶、テント、生活必需品を買い占めた。それを、49ersに数十倍の価格で売りつけ、大富豪になった。
 
 ドイツから移住してニューヨークで衣料品を扱っていたストラウスは、南米経由の船便でサンフランシスコにやってきた。彼も金を掘りに行かなかった。49erたちから「ズボンがすぐ破れて困る」という話を聞き、フランス製のサージ(serge de Nimes)という生地を輸入し、丈夫で履き心地のいいズボンを作った。これは後に「デニム」(denim)と呼ばれるようになった。ストラウスのファーストネームは「リーバイ」である。こうして、リーバイズのジーンズが誕生し、彼は大富豪となった。
 
 ウエルズとファーゴは、郵便と電信の会社「ウエルズ・ファーゴ社」を設立し、大陸横断の馬車便を開始した。金を採掘した人は、それを故郷に伝え送金したいが、なかなか信頼できるサービスがなかった。そのような中、ウエルズ・ファーゴ社は、郵便と電信を独占し、大富豪となった。
 
 

成功者たちの共通点

 
 成功者たちには共通点がある。第1に、情報を有効活用した。第2に、人と同じ行動をとらなかった。第3に、独占した。
 
 ブラナンは、「金が出た」という情報を基に、生活必需品などを買い占め、これを独占的に販売して利益を得た。
 
 リーバイは、「ズボンがすぐ破れる」という49ersたちの現場のニーズ(情報)を聞いて、丈夫で履き心地の良いズボンを作り、これを独占して利益を得た。
 
 ウエルズ・ファーゴも、49ersが求めていた「郵便や送金」というサービスを独占的に提供することにより、利益を得た。
 
 以上が、『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』の概要とそこから導き出される教訓である。これを現代のゴールドラッシュのパソコン(PC)やスマホに当てはめてみよう。
 
 

ゴールドラッシュ、PC編

 
 アップルが生み出したPCは金の鉱脈となった。そして、米国、日本、台湾メーカーなど多数の49ersが出現した。しかし、PCがモジュール化し、簡単につくれるようになったため、PCメーカーはまるで儲からなくなった。
 
 半導体メモリDRAMにも十数社が群がったが、供給過剰となり、やがて1個1ドルを切り、ほとんどが赤字に陥った。2012年にエルピーダは倒産し、サムスン電子、SKハイニックス、マイクロンの3社に集約された。液晶パネルにおいても、競争が激化した結果、すべてのパネルメーカーが赤字に転落した。
 
 このような中で、高収益をあげたのは、OSを支配したマイクロソフトと、プロセッサを支配したインテルである。この2社によるウインテル連合は強力な参入障壁を形成し、利益を独占し続けた。
 
 やがて、検索のグーグルやSNSのfacebookに覇権が移行した。スマホが登場すると、その傾向はより一層、顕著になった。
 
 

ゴールドラッシュ、スマホ編

 
 アップルが2007年にiPhoneを発売し、再び金の鉱脈を創造した。アップルは、iPhone用プロセッサの製造委託をインテルに打診したが、この千載一遇のチャンスをインテルは断ってしまった。その結果、当時CEOだったポール・オッテリーニはクビになった。インテルは折角の情報を活かせず、プロセッサを独占するチャンスを失った。
 
 その後、スマホメーカーには多数の49ersが現れた。日本の49ersたちは、ソニーを除いて壊滅状態となった。ソニーも赤字から抜け出せない。
 
 その49ersの中から成長して、アップルを凌駕したのはサムスン電子である。インテルが断ったiPhone用プロセッサの製造を請け負い、そこで得た情報をGALAXY開発に最大限利用した。そして、シェアでアップルを追い越した。
 
 このサムスン電子を窮地に追いやったのは、スマホの設計図(リファレンス)と推奨部品リストを添付して相場の半額でプロセッサを販売した台湾のメディアテックである。その結果、中国では大した技術もなくスマホがつくれるようになり、「靴屋でも明日からスマホメーカーになれる」と言われるようになった。こうしてメディアテックは、中国のスマホ市場を支配した。
 
 この恩恵を受けたシャオミが、中国のスマホシェア1位、世界でも3位に躍進した。シャオミは、販路をオンラインに限定、端末は原価に近い価格で売り、利益はアクセサリやオンラインストアで稼ぐビジネスモデルを採用した。この結果、驚異的な低価格化が実現し、躍進の原動力となった。
 
 結局、PCでもスマホでも、「情報を効果的に活用し、人と同じことをしないで、独占する」ことができた者が、高収益を上げ、成長している。
 
 

教訓をIoTに活かせ

 
 さて、IoTである(図1)。どこもかしこも、ウエアラブル端末の開発競争をしている。これは、金を求めて殺到する49ersを髣髴とさせる。
 

 
 しかし、IoTの本質とは、2020年に500億個のデバイスがネットにつながり、1兆個のセンサーが世界を覆い、これらのビッグデータがコンピューターに集められ、それを基に未来を予測する、ということである(図1)。各社が血道を上げて開発競争しているウエアラブル端末は、その全体像のごく一部分に過ぎない。
 
 『ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル』から学ぶとすれば、情報を有効活用し、人と同じことをしないで、独占する。それが、IoTという金の鉱脈で儲けるための方法である。その方法を発見することが、最も重要なことである。