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報道ヘリコプターを減らせないのか
「恐怖心をあおる」「自衛隊ヘリの妨げ」という被災者の声

朝日新聞WEBRONZA 2016年4月24日

 熊本地方で4月14日および16日に、それぞれ、マグニチュード6.5および7.3の地震が発生し、益城町(ましきまち)では2度に渡り震度7を観測した。
 
 震度7は、激震と名付けられた最大級の地震である(それ以上の震度はない)。国内で震度7を観測した地震を気象庁のデータベースで検索すると、全部で5回ある。1995年の阪神大震災、2004年の新潟県中越地震、2011年の東日本大震災、そして今回の熊本地震の2回である。つまり、益城町は、日本でわずか5回しか記録されていない震度7の大地震に、28時間の間に2回も襲われたのである。
 
 この益城町の知人(Aさん)から、至急記事を書いて欲しいという依頼のメールを頂いた。それによれば、「熊本の被災者が一番迷惑をしているのは報道ヘリコプター」であるという。それは何故なのかを本稿で詳述する。そして報道機関には、共同でヘリを飛ばすなど、極力報道ヘリを減らすよう要請したい。
 
 

建物の中に避難するのが怖い

 
 私は2012年から1ヶ月に2回、有料のメルマガ「内側から見た半導体村」を発行している。会社を経営しているAさんはその読者で、時々メールをやり取りするお付き合いをしている。
 

崩れた家の屋根に穴を開け、部屋の中から物を取り出す住民=4月17日、熊本県益城町、白井伸洋撮影

 
 そのAさんから4月22日に、「実は私、益城町に住んでいます。今回の地震をモロに受けました」というメールを受け取った。私はAさんが益城町に住んでいることを知らなかったので、大いに驚いた。幸い、ご本人、ご家族、従業員は無事だったとのことで、まずはホッとした。
 
 4月14日の震度7の地震(前震)では、日奈久断層付近の直径5km範囲に被害が集中し、Aさんのご自宅はそこから2kmほどの所だったという。また、16日の震度7の本震では、府田川断層付近の直径10km範囲に被害が集中し、Aさんの自宅はほぼその断層沿いにあったようである。それ故、「非常に恐ろしい思いをした」と言っている。
 
 その後、Aさん一家は、指定避難場所の温泉宿泊施設「エミナース」にクルマで避難したが、クルマの中で避難生活を送っているという。その理由は、2度に渡る大地震の恐怖がトラウマになって建物の中に入ることができないからだという。
 
 私もテレビで、学校のグラウンドなどの屋外に大勢の方が避難している異常な光景を見た。シートを敷いて毛布を被っている人もあれば、Aさんのように駐車場に停めたクルマの中に避難している人もいた。
 
 

松本副大臣の無責任な発言

 
 4月15日に災害対策本部長として被災地入りした松本文明・内閣府副大臣は、熊本県の蒲島郁夫知事に会うなり、「今日中に青空避難所というのは解消してくれ」と指示したらしい。しかしそれは、「建物の中が怖い」という避難民の心情を理解していない無責任な発言である。
 
 松本氏は他にも、16日の本震の後に行われた県と政府のテレビ会議において河野太郎防災担当大臣に、被災地に食料などの物資が不足しているにもかかわらず、「食べるものがない。これでは戦えない。近くの先生(国会議員)に差し入れをお願いして欲しい」などと申し出ていたとのことである。人間的に問題があるとしか思えない。
 
 20日に現地対策本部長は、松本内閣府副大臣から酒井庸行内閣府政務官に交代となったが、政府には最初からもっとまともな人選をしてもらいたい。というより、それ以前に、このような方が「内閣府副大臣」というポジションに就いていることが問題なのではないか。
 
 

騒音がひどく、不安をあおる報道ヘリ

 
 さて、私はAさんにお見舞いの返信メールを出し、そこで「私に何かできることはないでしょうか?」と書き添えた。すると、すぐに記事に書いて欲しいこととして、「今、熊本の被災者が一番迷惑をしているのは報道ヘリコプターです」というメールが返ってきた。
 
 Aさんによれば、朝早くから夜中まで常に数機のヘリが上空を飛んでおり、自衛隊の救援ヘリを含めると5台以上のヘリが飛んでいることもあるという。避難所には、戦争映画のようなヘリの音が一日中しており、騒音がひどいのはもちろんのこと、被災者の不安感を必要以上に煽っているようである。
 
 Aさんは、「東日本大震災の時は、広域に被害が発生したのでたくさんの報道ヘリは必要であったと思います」とその必要性は認めながらも、「今回は、益城町の面積60平方km、南阿蘇を含めても高々100平方kmの中に全てのTV局のヘリが集中している」と指摘している。そして各局の報道ヘリが、「被災者の迷惑を考えず、恐怖心を煽って、ハイエナみたいに決定的瞬間や、のぞき見的または刺激的映像を探している」ように感じるという。
 
 例えば、「土砂災害で行方不明者が発見されたとき、自衛隊が人目につかないように、ビニールシートで囲っているのに、ヘリで上空から撮影している映像を見たときは、涙が出るほど、怒りを感じました」と述べている。被災者の心情を全く無視していると私も思う。
 
 

自衛隊ヘリの妨げになっていることを懸念

 
 さらにAさんは、「報道ヘリが、人命救助や資材運搬を行っている自衛隊ヘリの妨げになっている」ことを懸念している。
 
 直径8kmほどの益城町には、熊本空港と陸上自衛隊高遊原分屯地の両方がある。熊本空港は、現在運行が開始され多くの旅客機が離着陸している。一方、高遊原分屯地からも、多くの物資輸送機やヘリが離着陸している。その狭いエリアに、各局の報道ヘリが集中して飛んでいるのである。
 
 Aさんは、「地上から見ていると非常に危険」であるとともに、「自衛隊の活動の妨げになっている」と感じている。そして、「ヘリは各局が飛ばすのではなく、極力少なくして、共同の映像を使用することにできないものでしょうか」と提案されている。
 
 避難者に迷惑をかけず、自衛隊の活動を妨げないためには、各局の協力のもと、是非この提案を実現していただきたい。報道ヘリと自衛隊ヘリの接触事故が起きてからでは遅いのである。