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テレビが報じない福島原発事故

朝日新聞WEBRONZA 2011年4月12日
 私の専門は半導体である。しかし、大学では原子核工学を専攻した。そして、修士課程の2年間は、京大原子炉実験所で研究生活を送った。ちょうどチェルノブイリの原発事故が起きた頃である。それから25年が経過し、最近まで原子炉のことなどすっかり忘れ去っていた。

 ところが、3.11以降の福島原発事故を巡って、京大原子炉の先生方を、テレビ、新聞、雑誌、インターネットなどを通して、懐かしくも複雑な心境で見る羽目になった。

 例えば、中島健教授、宇根崎博信教授は、テレビや新聞に解説者として登場している。また、内閣府の原子力安全委員の肩書でテレビにたびたび登場して、「飯館村のIAEAの放射線測定値は草の上を測っただけ」と述べて顰蹙を買った代谷誠治氏も、実は京大原子炉の元所長である。

 一方、同じ京大原子炉所属でも、原発反対派の今中哲二助教や小出裕章助教の意見は、テレビや大手新聞があまり取り上げない。しかし、インターネット上では、教授たちや元所長よりも、彼らの発言が大きな話題となっている。

 例えば、今中助教は、3月28日の京都新聞のサイトで、福島県飯館村の汚染レベルがチェルノブイリ原発事故による強制移住レベルを超えているとの試算を発表している。

 また、小出助教は、広島在住のWebジャーナリスト哲野イサク氏のインタビューに対して、最悪の事態としてはチェルノブイリ以上の惨事になると答えている。その理由として、小出氏は以下のように説明している(筆者が要点を抽出)。

 「燃料棒の被覆管の破損は確実。また、被覆管の中に入っているウラン燃料のペレットも、大規模ではないが、破損は確実。もし、このウラン燃料が大量に溶けて圧力容器の底に落ちたとき、圧力容器の底に水が溜まっていれば、水蒸気爆発を起こす。水蒸気爆発を起こせば、おそらく圧力容器は壊れる。格納容器も壊れる。こうなると、もはや放射性物質を閉じ込めておくことはできない。これが一つ起きれば、1号機から4号機(もしかしたら6号機まで、ひょっとしたら福島第2原発も)付近の作業現場に人が留まることができなくなり、すべての原子炉で同じことが起きる。被害は、チェルノブイリの3倍以上になる。研究者や科学者など専門家は(東電も)そう思っている」。

 一体、福島原発はどのようになってしまうのか。今中助教や小出助教の発言は、あまりにも悲観的過ぎるものなのか。さまざまな情報が交錯しているため、筆者も判断が下せないでいた。

 ところが、3月30日、日本の原子力を強力に推進してきた重鎮16人が「福島原発事故についての緊急建言」を行ったことを知った。これを記事として取り上げたのは、2011年4月2日の読売新聞と4月3日の赤旗だけのようだ(WEBRONZA編集部から、朝日新聞には4月7日に掲載されたとの指摘があった)。

 この建言を読んで、今中助教や小出助教の意見が、決して誇張しすぎではないと感じた。何しろ、16人には、元原子力学会会長、元原子力安全委員長、東大名誉教授、京大名誉教授などがズラリと並んでいる(その中には、筆者の学位論文を審査して頂いた元京大原子炉実験所教授も含まれている)。そのお歴々たちが、国民への謝罪を述べたのち、小出助教が指摘している最悪の事態を懸念しているのである。

 例えば、朝日新聞4月9日夕刊一面によれば、前掲16人のうちの一人、元原子力安全委員長の松浦祥次郎氏が「放射能の大半はまだ内部に残っている。放射能の総量はチェルノブイリの数倍。格納容器が壊れるなどして大量放出される事態は絶対に避けなければならない。継続冷却システムの回復が最優先だ」と述べている。

 事態は極めて深刻だ。原発推進派だの反対派だのといがみ合っている場合ではない。政府においても与党だ野党だなどと言っている場合ではない。選挙などやって万歳している余裕などはない。「真実を話すとパニックになる」とか「風評被害が怖い」とか言っている場合でもない。

 3月30日の建言の結論にあるように、日本の政、官、学、産、すべての力を結集し、事態を鎮静化させなければ、日本の未来は無い。