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日本が変わるため、政治家も経営者も60歳で引退を

朝日新聞WEBRONZA 2011年11月23日
 少子高齢社会では、政治や産業界の関心が、少数の若者よりも、多数の高齢者に向かいやすいという。日本では、2009年〜2050年にかけて、35歳未満の有権者数が11%から7%に低下する一方、65歳以上の有権者は28%から46%に増大する(図1)。日本の現政権における年金や医療の改革においては、団塊の世代などの高齢者の利益が守られ、若者が不利益を被る可能性が高い。
 また、60歳定年を65歳に引き上げ、これを義務付けようという動きがある。この理由は「厚生年金の支給開始年齢を引き上げるから」といわれている。もし、65歳定年が本当に義務付けられたら(そうなりそうだが)、企業は人件費削減のために、今よりさらに新卒採用を減らすだろう。来春卒業予定の大学生の就職内定率は10月1日時点で60%を切っている。今後はもっと低下することになる。結局、割を食うのは若者だ。

 このようなことになるのは、政治家が、多数派を占める高齢有権者の方を見て政策立案しているからに他ならない。内閣の平均年齢も、常に60歳前後(例えば、鳩山内閣61歳、管内閣59歳、野田内閣58歳など)と高齢であることにも原因があるだろう。彼らに若者の辛さが実感できているとは思えない。

 ここで企業に目を向けてみよう。かつて筆者が所属していた電機産業においては、半導体メモリDRAMから撤退し、システムLSIが凋落し、今や日本電機産業の象徴的存在だったテレビ産業が壊滅しようとしている。

 日本中の電機メーカーが一斉に同一市場に参入し、激しい開発競争を繰り広げ、供給過剰となって価格が暴落し、ところがそもそも高品質病に冒されているからコストを下げられずに呆気なく大赤字を計上、その結果、社員の大リストラを行い、弱った企業同士が合弁する、と言うルートはいつもお馴染みだ。そして、合弁会社の内部では摩擦と混乱が渦巻き、より事態は悪化していく。

 初期のエルピーダも、2回合弁したルネサスも、そうだった。そして今、産業革新機構から2000億円の投資を得て、東芝、日立、ソニーが中小液晶パネルの新会社を立ち上げるが、また同じ負のスパイラルに陥っていくとしか思えない。

 なぜこのように同じ失敗を繰り返すのか。慶応大学商学部の三橋平(みつはし・ひとし)教授は、「企業が一度ある路線を歩み始めると、その路線を踏襲し続ける。すなわち、組織には慣性がある」と指摘している。電機メーカーの上記の行動を眺めてみると、そのような「慣性」が働いていると思われる。

 三橋教授はこうも指摘している。「企業は意思決定に際して、あらゆる状況を把握し、すべての選択肢を精査しているのではない。むしろ、手近で思いつきやすく親しみのある選択肢、つまり、前と同じ選択肢に頼る」。電機メーカーが上記のような「慣性」的な行動をとる背景には、このような原因があるに違いない。

 そして、このような原因をつくり出しているのは、高齢化した経営者たちだ。日本の電機メーカーの役員の平均年齢を見てみると、エルピーダ(と執行役員を含めた東芝)以外はすべて60歳を超えている(図2)。平均年齢が70歳に近い企業もある。
 このような高齢経営者たちが、変化の激しいエレクトロニクス産業において、変化の兆しをいち早くキャッチし、斬新で大胆な経営戦略を立案できるとは、とてもじゃないが考えられない。彼らは1980年代の黄金時代の日本を築いた人たちである。そのプライドと経験が、毎度お馴染みの経営を行い、「慣性」を生み出しているのだろう。

 筆者は、定年を65歳に引き上げることに反対である。特に、役員は60歳までに引退し、フレッシュな後進に道を譲るべきである。そして、政治家も60歳を過ぎたら政界から身を引くべきだ。政界も産業界も高齢化しているから、日本は変わることができないのだ。

 今週末、大阪市長選挙がある。候補者は、元大阪市長の平松邦夫氏(63歳)と、元大阪知事の橋下徹氏(42歳)。筆者は、政策などは度外視して、無条件に、若い橋下氏に市長になっていただきたい。