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この猛暑の時期に本当に東京オリンピックをやるのか?

朝日新聞WEBRONZA 2014年8月12日
 関東では、連日、猛暑と熱帯夜が続いている。昼、外を出歩くのは生命の危険を感じるほど、暑い。「熱中症患者が○○人、うち重体が□人」というニュースにも、慣れっこになってしまった。やはり温暖化は進んでいるのか、この先どこまで暑くなるのか、不安を覚えずにはいられない。いつしか夏は、私にとって恐怖の季節になってしまった。

 そのような中、私が最も危惧しているのは、6年後の2020年に開催される東京オリンピックである。そのスケジュールは、7月24日(金)〜8月9日(日)の17日間が予定されている。まさに東京が連日猛暑となる真っただ中で、オリンピックが開催されるのである。各国の選手団、主催関係者、そして多くの観客にとって、極めて過酷な時期での開催となる。

 特に屋外競技にとっては、“死のオリンピック”になりはしないか、大変心配である。ここ数年、軽い熱中症に何度かかかった私は、せっかくの東京オリンピックではあるが、絶対に観戦にはいかない。暑さが怖くて、とても競技場に近づく気にはなれないのである。

 このような時期に、東京でオリンピックを行うことがどのくらい危険なことであるか、国立環境研究所と気象庁のデータを見て考えてみよう。

 図1に、東京23区の35℃以上の猛暑日、30℃以上の真夏日、最低気温25度以上の熱帯夜の日数と、救急車で搬送された熱中症患者数を示す。
 2000年以降、500人前後で推移していた熱中症患者数が、2010年に急激に増大し3000人を超えた。2011年および2012年は若干減少するが、それでも2000人を超えている。そして、2013年に、再び3000人を突破した。つまり、2010年以降、熱中症患者数が増大し、高止まりしている。

 2009年以前と2010年以降で何が変化したのか?

 まず、熱中症患者数が3000人を超えた2010年と2013年は、35℃以上の猛暑日が10日以上あることがわかる。また、30℃以上の真夏日も、2010年以降は、71〜58日と、それ以前よりも多いといえる。さらに、最低気温25度以上の熱帯夜が、56〜39日と、これまた多い。

 結局、熱帯夜が長く続いて体温が下がらず、昼は30℃以上の真夏日が多いため、それが熱中症患者数を増大させていると言えそうだ。ただし、真夏日や熱帯夜が2010〜2013年と同じくらい多かった2000年および2004年の熱中症患者がさほど多くない理由は、わからない。

 いずれにせよ、2010年以降、東京23区の熱中症患者は2000〜3000人規模で発生しており、この傾向は今年以降も続くのではないかと思う。

 果たして、東京オリンピックが開催される2020年の夏はどうなるのだろうか? 猛暑日、真夏日、熱帯夜の日数が、今より少なくなることは、期待できそうもない。逆に、これらの日数がもっと増えている可能性の方が高い。その結果、東京23区民だけでなく、1000万人規模で東京にやってくる各国選手団や観客に、熱中症患者が多発するのではないか。

 そもそも、なぜ、このような猛暑の時期にオリンピックが開催されるのであろうか?選手にベストな環境を提供し、ベストパフォーマンスを期待するべきなのに、なぜこの時期なのか?

 それは、国際オリンピック委員会(IOC)が、7月15日〜8月31日の期間内におさまるように、立候補都市に求めているからだという。秋は、欧州のサッカー、米国の大リーグが佳境を迎え、アメリカンフットボールのNFLもあるため、テレビの放映枠でこれら人気プロスポーツとの争奪戦を避けたいという思惑がIOCにはあるらしい。(朝日新聞、教えて!東京五輪:1、2013年10月16日)

 もし、このような商業主義の力学により、猛暑の時期にオリンピックが開催されるのならば、それは、「スポーツを商業的に悪用することに反対」とうたう五輪憲章に大きく反することだ。IOCやJOC(日本オリンピック委員会)をはじめ、関係者は、誰のための、何のためのオリンピックなのかを、原点に戻ってもう一度よく考えた方が良いのではないか。

 今からでも遅くない、東京オリンピックを“死のオリンピック”にしないために、開催時期をもっと涼しいときに変更するべきである。もしそれができないなら、可能な限りの競技を空調の効いた室内施設で行い、室内開催が難しいマラソンなど陸上競技は、東京ではなく、比較的涼しい北海道などで行うべきだろう。

 2013年のオリンピック招致のためのプレゼンテーションで、東京は、「お・も・て・な・し」を強調した。これを有言実行するためには、猛暑の問題を解決しなくてはならない。8月5日に環境省は、マラソンコースに霧状にした水をまいたり、保水性のある舗装をしたりすることを提案したが、この程度の対策では、まるで解決策にはならないだろう。根本的に解決するには、開催時期や場所を変更するしか無いと思う。後は、冷夏になるように、神頼みするしかない。