♪  半導体技術者の視点で、社会科学の研究を推進中。  ♪  社会科学者の視点で、半導体の技術開発を推進中。  ⇒ 最新記事と講演については、facebookでもお知らせしています。

新聞社の取材に腹が立つ
コメントをとるなら対価を支払うべきだ

朝日新聞WEBRONZA 2016年3月3日

不愉快になる新聞社の取材

 
 テレビ、新聞、雑誌などから、取材されたり、コメントを求められたりすることが多くなった。昨年来では、東芝の粉飾会計や、シャープの買収に関する問題について「詳しい話を聞きたい、意見を聞きたい、コメントが欲しい」と多くのメディアから接触があった。
 
 しかし、このようなときに不愉快な思いをすることが多い。特に新聞、その中でも日経、朝日、読売(つまり日本の大手と言われる新聞)の取材では、不愉快を通り越して腹が立つことすらある。
 
 何が不愉快かというと、第一に、上から目線の態度をとることである。第二に、謝礼などは一切払わない。第三に、当方のコメントを使ったかどうかを一切知らせない(もちろんコメントが掲載された新聞を送ってくることも無い)。
 

記者の質問に答える鴻海精密工業の郭台銘会長=2016年2月5日、大阪市阿倍野区、豊間根功智撮影

 
 唯一の例外は東京新聞で、ここだけは謝礼を支払い(もちろん多くはないが)、掲載紙を3部、きちんと送ってくる。しかし、自分が経験した範囲では、それ以外の新聞社の記者の態度は、目に余るものがある。
 
 その一例を示すと直近では、経営不振のシャープが台湾のホンハイによる買収を臨時取締役で決めた件に関するコメントを、2月26日に読売新聞の記者から求められた。そのときの様子をなるべく忠実に再現してみよう。
 
 

読売からのコメント依頼とそのやり取り

 
 まず、26日の14時ごろ、「電話取材を行いたい」という内容のメールが送られてきた。そこには、連絡先として携帯電話の番号だけが記載されていた。
 
 私は、コンサルタント先の打ち合わせを終えた17時ごろ、そのメールに気付き、電話をかけた。しかし、留守電話になっていたので、何もメッセージを残さず電話を切った。
 
 その20分後に記者から、折り返しの電話がかかってきた。そのやり取りは、以下の通り。
 
読売 「電話を頂きましたが、何か用ですか?」
 
湯之上 (何か用ですかはないだろうと思いながら)「電話取材をしたいとメールを出したのは貴方ではないのですか?」
 
読売 「ああ、そうでした。ご意見があるなら伺いたいと思いますが」
 
湯之上 「その前に、この取材はボランティアですか?」
 
読売 「そうですが、何か問題がありますか? もし、お金を請求されるなら、コメントは要りませんので、もう結構です」
 
湯之上 (この時点で相当腹が立っているが)「じゃあ、コメントを採用した場合は、掲載紙を送ってもらえますか?」
 
読売 「ご希望は一応、伺いましたが、確約はできません」
 
湯之上 (不愉快だったが面倒くさいので話してしまうことにした)「私の意見は次の通りです」
 
…と、前回の拙記事『シャープ買収の行方を占う、液晶パネル技術の帰属先次第で空中分解も(WEBRONZA、2016年2月10日)』に記載した内容を説明した。以下、その要約。
 

ホンハイによるシャープの買収は失敗する
 
 ホンハイがシャープを買収する目的の一つに、高画質で低消費電力性の液晶パネルの技術「IGZO(イグゾー)」を取得することにある。

 ところがイグゾーの基本技術については、東京工業大学の細野秀雄教授が科学技術振興機構(JST)の創造科学技術推進事業のプロジェクトにおいて開発し、複数の特許を取得している。その特許はJSTが管理しており、シャープは2012年1月にライセンス供与を受けている。

 また、イグゾーの結晶については、「単結晶でもなく、アモルファスでもない新しい結晶構造を発見した」として、半導体エネルギー研究所の山崎舜平社長が特許を取得している。

 さらに、山崎社長は、日本からの技術流出を極度に警戒しているため、ホンハイに買収されたシャープに特許を使わせるかどうかは疑問だ。

 今回、ホンハイがシャープを買収することになりそうだが、ホンハイがシャープの技術を詳しく調べた結果、「ここには肝心の技術がない」ことが分かって、非常に怒りっぽいホンハイの郭董事長が買収を途中で放り出す可能性が高い。

 
湯之上 「つまり、私は、ホンハイによるシャープの買収は、途中で決裂して、失敗すると思う」
 
読売 (ちょっと時間をおいて)「要するに、“この買収は不透明で先行きを注目している”ということでいいですか?」
 
湯之上 「違います。この買収は決裂し、失敗すると言っているんです」
 
読売 (困ったように)「だから、“先行きが不透明だ”というコメントということですよね」
 
湯之上 「貴方も分からない人だな、不透明ではなくて、この買収は失敗するというのが私の意見だよ」
 
読売 (納得できない口ぶりで)「分かりました」
 
湯之上 「コメントを使った場合は、掲載紙を送ってください」
 
読売 「…」(何も言わずに切ってしまった)
 
 この間、約30分。相当に後味の悪い電話取材だったことは言うまでもない。そして、記者からは、その日の21時ごろ、「貴殿のコメントは掲載しない」旨の連絡があった。話さなければよかったと大いに後悔した。
 
 

新聞社は情報に金を払え

 
 この腹立ちも冷めやらぬ2月27日に、千葉県の柏市にある麗澤大学で講演をした。そこで、「メディアウオッチ」というミニコミ誌を発行している朝日新聞OBのA氏にお会いした。
 
 A氏に、「自分が経験した範囲では新聞社の記者は態度が傲慢で、謝礼は払わず、たとえコメントを採用しても掲載紙を送ってこない」ことを話してみた。
 
 すると、A氏は「確かに傲慢なところはあるかもしれない。しかし、謝礼については、そんなことはないはずだ」と驚いておられた。「例えば作家とか、貴方のようなフリーのジャーナリストにコメントを貰う費用は、1件1万円程度と少額かもしれないが予算化されているはずだ」というのである。
 
 私が「例えばエレクトロニクス産業界で起きている大きなニュースについて詳しい解説を行い、意見を述べ、コメントをした場合、同じ話を各新聞社にしても、東京新聞以外から、謝礼をもらったことがない」と説明すると、「少なくとも私がいたころ(1980~2000年ころ?)の朝日新聞では謝礼を払っていた」という。
 
 さらに、「コメントの掲載を見送る場合は、その旨連絡して謝罪をする。コメントを掲載した場合は、掲載紙を送る。こんなことは、記者以前に人間として当たり前のことで、それがなされていないとは言語道断」と言っていた。まったく同感である。
 
 自分が経験した範囲では、テレビと雑誌は、多くの場合、謝礼を払い、テレビなら出演したDVDを、雑誌なら掲載誌を送ってくる。私に謝礼を払わず、掲載紙を送ってこないのは、新聞社だけである(東京新聞を除く)。こちらは30分から長いときは2時間を超える解説を行い、意見を述べ、コメントをしているにもかかわらず、新聞社はその情報にお金を払わないとはどいう神経をしているのだろうか。
 
 新聞社の記者は、例えばエレクトロニクス産業界で起きている大きなニュースについて詳しい解説、それに対する意見またはコメントを依頼する際には、その対価を支払うべきである。